挿管

挿管依頼、麻酔科医であればだれしも経験するようだ。
先日、外勤先の病院で麻酔導入が終了すると、ナースが笑顔で語りかけてきた。
「先生、となりの部屋で挿管困難みたいなんです。もし手が空いていたら来て頂けませんか」
「え?全麻してるの?」
そう、この病院には常勤の麻酔科医はいないはずなのだ。
「外科の先生が麻酔してるんですが・・・」
まだドレープもかかっておらず、執刀までは時間がかかりそうだ。
導入後のバイタルも落ち着いている。
「わかりました。見に行きましょう」

隣の部屋に行くと30年目の外科医がバッグをもんでいる。
さすがに落ち着いた対応で、こんな人が無理なもの、自分にできるのかと不安になる。
近くによると明石家さんまも顔負けの出っ歯、おまけにほぼすべての歯が歯槽膿漏でぐらついている。
外科医は展開しただけであきらめたようだ。
歯茎から多少出血しているが折れてはいない。
術前に抜歯についてもちゃんと同意を取っているとのことだ。
なかなか賢明な先生だ。

早速交代し、マスク換気を行なう。
換気は容易だ。
落ち着いてまわりを観察し、枕の高さを変え、スタイレットのカーブを調整する。
さて、展開だ。
。。。なんてことだ。クロスフィンガーで指が当たる歯でさえも折れそうだ。
これでは十分に開口できない。
なんとか喉頭鏡を差込み展開する。
喉頭蓋の確認がやっとだ。
少しでも喉頭鏡を動かすと歯に当たる。
こねようものなら、あっという間に折れてしまうだろう。

一発で決めてカッコイイところを見せつけたかったが、外勤先だし無理はできない。
とはいえ、ここにはトラキライトなんてものはない。
筋弛緩なしでは苦しい手術でもある。

「ファイバー挿管しましょう。準備してください」
麻酔科医が一月に10回以上も外勤に来る病院だ。気管支ファイバーは置いてある。
が・・・・用意してもらった気管支ファイバー、ライトがつかない。
電池ボックスを開けると何も入っていない。
おまけに電池のありかも分からないようでバタバタし始めた。
「先生、始めてもよろしいですか?」
どうやら隣の部屋では本来の担当患者さんの手術を始めたいようだ。
「いいですよ。ただし、バイタルが大きく変動したら中止して待っていてください」
担当患者さんの神経ブロックに自信はあったが、若いので筋弛緩が早めに切れ、バッキングしないか不安になってきた。

「。。。。ブラインドで挿管してみましょう。」
「え?」
外科医が少し笑った。
自分でも難しいのは分かってるんだけどねぇ。。。
マッコイで持ち上げ、ナースに喉を押さえてもらう。
喉頭蓋の後を沿わせて、イメージした気管入り口へと挿管チューブ先端を導く。
入った感触だ。
スタイレットを抜いてもらい、聴診。
チューブの深さを調整する。
EtCO2も良い波形だ。

結局、ブラインド一発で挿管できたのだが、改めて並列麻酔のリスクについて考えさせられた。
いったん複数の患者さんにかかわってしまえば、誰に事故が起こってもある程度責任が生じてくる。
また、麻酔科の常勤医がいない病院は、麻酔をする環境とういう面でやはり問題だ。
緊急時の物品、麻酔科的指示の理解など、危機的状況ほどこういったものが結果を左右する。

この日は、抜管後に喉頭浮腫・換気困難になったら(今まで一例も起こしていないけど)どうしようと悩んだ。
帰宅後も、いろんなことが気になった。

そして、歯磨きが念入りになった。

(注:写真と本文は関係ありません)
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by horizone | 2005-08-11 16:00 | 麻酔・集中治療


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